映像概論現代映像概論 ―今から、源流へ遡る2年間
2年後期第47回 仕上げの意図(2)オープニング集

オープニングは入口、エンディングは出口 タイトルデザインの系譜

今回は1本の作品ではなく、象徴的なオープニングとエンディングを集めて上映しました。中心にしたのは、1995年の『セブン』です。1年後期の第21回で『シン・ゴジラ』の文字を、第22回で『ストレンジャー・シングス』のタイトルを観ました。今回は、その源流から現在までを一気にたどります。僕の仕事でも、タイトルやオープニングは一番多く関わってきた分野の一つです。

今回扱った作品

時代作品種類タイトルデザイン観るポイント
1950年代『めまい』(1958)、『サイコ』(1960)オープニングソール・バス図形と文字だけで、作品の不安を先に伝える。タイトルデザインの源流
1960年代〜『007』シリーズオープニングモーリス・ビンダー、ロバート・ブラウンジョン、ダニエル・クレインマンほか銃口から始まる「ガンバレル」と、主題歌に合わせたシルエット。シリーズの顔として60年以上続く型
1995年『セブン』オープニングカイル・クーパー(当時R/GA)手書きの文字とざらついたフィルム。本編が始まる前に事件の空気を刷り込む
2002年『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』オープニングオリヴィエ・クンツェル、フローランス・デイガ1960年代風のアニメーションで、追いかけっこの物語を要約する
2006年『300』エンディングガーソン・ユー(yU+co)、リードデザイナー:ヨランダ・サントーサ本編の様式化された画を、さらにグラフィックとして描き直して余韻を残す
2009年『スター・トレック』エンディング—(授業前に確認)シリーズのテーマ曲と宇宙の画で、新しい物語を長い歴史の続きとして締めくくる
2017年『スター・トレック:ディスカバリー』オープニングPrologue(クリエイティブディレクター:アナ・クリアド、プロデューサー:カイル・クーパー)シリーズの歴史をデザインの目で見直し、技術の設計図のような画で組み立てる
2011年『ドラゴン・タトゥーの女』オープニングBlur Studio黒い液体のCGで、登場人物の内面と事件を抽象的に見せる
2011年『ゲーム・オブ・スローンズ』オープニングElastic地図が立体的に組み上がり、物語の舞台を毎話紹介する

作品とデザイナーの情報は公開情報をもとにしています。「—」の作品は、授業前にクレジットを確認してください。「観るポイント」は授業での観察にもとづく整理です。

作り手のバックボーン

ソール・バス グラフィックデザイナーとして、映画のポスターとタイトルを一つの作品として設計した人です。それまでただの文字の羅列だったクレジットを、作品の一部に変えました。ここが、タイトルデザインの出発点です。

カイル・クーパー イェール大学でポール・ランドに学び、R/GAで『セブン』のタイトルを手がけて、タイトルデザインの考え方を変えた人です。1996年にImaginary Forcesを共同で立ち上げ、のちにPrologue Filmsを設立しています。整った文字ではなく、手で引っかいたような文字と、ざらついたフィルムで、事件の不穏さを作りました。

『007』シリーズのデザイナーたち モーリス・ビンダーが作った銃口から始まる型を、何人ものデザイナーが60年以上受け継ぎ、時代ごとに更新してきました。長く続くIPが、核を守りながら更新し続けるという話の、一番分かりやすい例です。

90年代の短い映像を変えた二人

『セブン』が公開された1990年代は、映画のタイトルとミュージックビデオという「数分の映像」が、表現として大きく変わった時代でした。その中心にいたのが、タイトルのカイル・クーパーと、ミュージックビデオのミシェル・ゴンドリーです。僕がこの業界に入ろうとしていた頃、二人の映像は、短い映像でもここまでできるという手本でした。

カイル・クーパーミシェル・ゴンドリー
主な分野映画のタイトルシーケンスミュージックビデオ、CM、長編映画
出発点R/GAで『セブン』(1995)のタイトルを手がける。その後Imaginary Forces、Prologue Filmsを立ち上げるフランスのバンド「Oui Oui」でドラムを叩きながら、そのMVを撮る
代表作『セブン』、『ミッション:インポッシブル』(1996)、『スパイダーマン』3部作、『ゴジラ FINAL WARS』(2004)のタイトルビョーク「Human Behaviour」、ダフト・パンク「Around the World」(1997)、ケミカル・ブラザーズ「Star Guitar」、ホワイト・ストライプス「Fell in Love with a Girl」(2002)
作り方の特徴物語の外側に、作品の空気を先に作る。文字と質感で観客の心を準備させる音楽の構造を、そのまま画の構造にする。カメラの前で起きる仕掛けで驚かせる
長編への広がりタイトルデザインを映画の一部として確立した『エターナル・サンシャイン』(2004)でアカデミー脚本賞を共同受賞。MVで試した手法を長編に持ち込んだ

二人の経歴は、Art of the Title、Watch the Titles、Wikipedia英語版「Michel Gondry」などの公開情報をもとに要約しています。

カイル・クーパー:物語の外側を設計する

クーパーのタイトルは、本編の物語を説明しません。そのかわり、観客がどんな気持ちで本編に入るべきかを設計します。『セブン』の公開時には、タイトルが終わったところで客席から拍手が起きたと本人が語っています。数分のタイトルが、作品そのものと同じくらい記憶に残る。タイトルデザインを一つの仕事として成立させた人です。日本の『ゴジラ FINAL WARS』のタイトルも手がけていて、前期に観たゴジラの線ともここでつながります。

ミシェル・ゴンドリー:音楽の構造を画にする

ゴンドリーは、自分のバンドでドラムを叩きながら、そのミュージックビデオを撮るところから始めました。その映像がビョークの目に留まり、彼女のMVを長く手がけることになります。「Star Guitar」では、列車の窓から見える建物や電柱の流れを、曲の音のパーツに合わせて配置しています。「Around the World」では、曲の楽器ごとに違う集団のダンサーを割り当てています。音楽を「聴く」のではなく、「設計図として読む」作り方です。

ドラマーだった人が、音楽の構造を一番正確に画にした。僕はこれを、自分のバックボーンを武器にした一番分かりやすい例だと思っています。皆さんが1年生から集めてきた引き出しも、いつかこういう形で武器になります。

二人の映像を観る

あわせて知りたい作り手

カリン・フォン、ヨランダ・サントーサ、アナ・クリアドタイトルデザイン

カリン・フォンはカイル・クーパーとともにR/GAやImaginary Forcesで多くのタイトルを手がけたデザイナーです。ヨランダ・サントーサは『300』のエンディングのリードデザイナー兼アートディレクター。アナ・クリアドはPrologueのクリエイティブディレクターとして『スター・トレック:ディスカバリー』のオープニングを率いました。

考察

1. オープニングは「約束」

オープニングは、これからどんな作品が始まるのかを観客に約束する場所です。『セブン』は不穏さを、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』は軽快な追いかけっこを、本編が始まる前に約束しています。約束が守られるから、観客は安心して作品に入れます。

2. エンディングは「余韻」

エンディングは、本編を見終えた観客を、ゆっくり現実に戻すための時間です。『300』は本編の画をもう一度グラフィックとして描き直し、『スター・トレック』はテーマ曲で物語をシリーズの長い歴史につなげて終わります。どう終わるかで、観客が持ち帰るものが変わります。

3. 型を守り、時代で更新する

『007』のオープニングには、60年以上変わらない型があります。銃口、主題歌、シルエット。そのうえで、表現は時代ごとに変わってきました。第6回の『トップガン』で話した「引き継ぐものと更新するもの」が、ここでも見えます。

4. 短い尺に、はしごの全段が詰まっている

数十秒のタイトルにも、抽象、形容詞、具体、パラメータの全段があります。尺が短い分、どこかの段を飛ばすとすぐにばれます。自主制作のタイトルは、はしごを降ろす練習に一番向いています。

5. 自分のバックボーンを、作り方にする

クーパーは文字と質感で、ゴンドリーは音楽の構造で、短い映像を変えました。どちらも、自分が得意なものを作り方そのものにしています。自分の引き出しノートを見返して、自分にしかない作り方の種を探してください。

授業の進め方(90分×2コマ)

時間内容
1コマ目 0:00〜0:10導入:オープニングは入口、エンディングは出口
0:10〜0:401950〜60年代:ソール・バス、『007』シリーズ
0:40〜1:101990年代:『セブン』とカイル・クーパー、ミシェル・ゴンドリーのMV
1:10〜1:302000〜2010年代:『300』、『スター・トレック』、『ドラゴン・タトゥーの女』ほか
休憩—
2コマ目 0:00〜0:30比較:一番「約束」がはっきりしていたオープニングと、一番「余韻」が残ったエンディングを選ぶ
0:30〜0:50解説(この記事の考察)
0:50〜1:20演習
1:20〜1:30数名が発表

オープニングとエンディングは、YouTubeのほかVimeoやArt of the Titleで探します。

授業で投げた問い

  1. 一番「約束」がはっきりしていたオープニングはどれですか。何を約束していましたか。
  2. オープニングとエンディングで、作り方の違いを感じたところはどこですか。
  3. 自分の自主制作のタイトルは、観客に何を約束しますか。

参照動画

授業で上映したオープニングとエンディングです。

タイトルデザインの資料サイト

オープニングとエンディングは、YouTubeだけでなく、専門の資料サイトやVimeoにまとまっています。デザイナーのインタビューや制作の経緯まで読めるので、授業の前後に必ず見てください。

参考書籍

  • タイトル

    Saul Bass: A Life in Film & Design

    Jennifer Bass、Pat Kirkham/Laurence King

    ソール・バスの映画タイトルとグラフィックの仕事をまとめた作品集です(英語)。

    Kindleで探す電子版は要確認

  • タイトル

    Kyle Cooper: Monographics

    Andrea Codrington/Yale University Press(2003)

    カイル・クーパーのタイトル作品を解説した作品集です(英語)。

    Kindleで探す電子版は要確認

参考リンク