映画を撮りたかった人が、アニメに映画を持ち込んだ 富野由悠季と『機動戦士ガンダム』
絵コンテの3回目は、源流まで遡ります。第37〜38回の『時をかける少女』の細田守、第52回の押井守、第53回の庵野秀明。日本のアニメの演出家たちがカメラと映画の文法を意識するようになった、その出発点の一人が富野由悠季です。この授業で何度も紹介してきた『映像の原則』の著者が、どんな作品を作ってきたのかを観ます。
作品データ
| 作品 | 『機動戦士ガンダム』(TVシリーズ) |
| 放送開始 | 1979年 |
| 総監督 | 富野由悠季 |
| 制作 | 日本サンライズ(現・サンライズ) |
| その後 | 放送は予定より早く終わったが、再放送とプラモデル(ガンプラ)の大ヒットで人気が広がり、劇場版3部作(1981〜82年)が作られた。今も続くガンダムシリーズの原点 |
| 配信 | 要確認 |
出典:「富野由悠季の世界」展の紹介記事、各種報道をもとに要約しています。配信状況は授業前に確認してください。
作り手のバックボーン
映画をあきらめて、アニメに入った 富野由悠季は1941年、神奈川県生まれ。日本大学芸術学部の映画学科を卒業しましたが、当時の大手映画会社は新卒の採用をやめていて、映画の道に進めませんでした。演出の仕事ができるならと、1964年に手塚治虫の虫プロダクションに入り、『鉄腕アトム』で多くの回の演出を担当します。
「コンテ千本切り」 虫プロを辞めたあと、一時はCMの仕事もしながら、アニメの現場に戻ります。ジャンルを問わずさまざまな作品のコンテを描き続け、「コンテ千本切りの富野」と呼ばれました。絵が上手いからではなく、誰よりも早く、映像として成立するコンテを上げられることが武器だったと言われています。
総監督へ 1972年の『海のトリトン』で初めて総監督を務め、1979年に『機動戦士ガンダム』を作りました。2019年から20年には、神戸の兵庫県立美術館をはじめ全国6会場で、直筆の絵コンテなど約3000点の資料で仕事を振り返る「富野由悠季の世界」展が開かれています。2026年には旭日中綬章を受章しました。
アニメに持ち込まれた映画の文法
| 要素 | 映画の考え方 | 『ガンダム』で観るポイント(授業での観察) |
|---|---|---|
| カメラの位置 | 誰の目線で、どの距離から観せるかで意味が変わる | 巨大なロボットを、人間の目の高さから見上げる画 |
| 画面の左右 | 右(上手)と左(下手)には、強さや流れの印象の違いがある | 敵と味方が、画面のどちら側から現れるか |
| カットのつなぎ | 前後のカットの関係で、観客に意味を読ませる | 説明のセリフを減らし、画のつなぎで状況を伝える場面 |
| リアリティ | 世界のルールを一貫させ、観客に信じさせる | ロボットを「兵器」として扱い、戦争の中の人間を描く |
「映画の考え方」の欄は『映像の原則』の考え方をもとに整理しています。画面の左右の印象は、富野が自らの経験から論理的にまとめた原則であり、科学的に証明された法則ではありません。授業では「観客が約束事に慣れていることが、演出の力になる」として扱います。
あわせて知りたい作り手
安彦良和キャラクターデザイン・作画監督
『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインと作画監督を務め、のちに漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を描いた人です。富野の演出と安彦の絵が組み合わさって、ガンダムの画ができています。演出と作画は別の才能で、両方がそろって初めて作品になります。
考察
1. 遠回りが、武器になった
映画の道に進めなかった人が、アニメの中で映画を撮りました。最初の希望どおりに進めなかったことが、結果としてアニメに映画の文法を持ち込むことになった。僕の書籍で書いた「一度失敗したからこそ見えるもの」の、一番大きな例かもしれません。
2. コンテは、絵ではなく文法
「コンテ千本切り」は、絵の上手さで得た評価ではありません。カメラをどこに置き、何を画面の右に、何を左に置き、どうつなぐか。その判断の速さと正確さです。第37回で話した「コンテは時間の設計図」を、仕事として何千回も繰り返した人です。
3. 経験を、原則にして渡す
富野は、自分の経験を『映像の原則』という本にまとめ、後の世代が使える道具にしました。経験を自分の中にしまっておかず、言葉にして渡す。この授業の分析シートやはしごも、同じ考え方でできています。
4. 作品が、お金の流れを変えた
放送は予定より早く終わりましたが、プラモデルの大ヒットで作品が生き返り、劇場版が作られ、40年以上続くIPになりました。はじめに読むの記事で紹介した「アニメが商品を動かす構造」は、この作品から始まっています。
授業の進め方(90分×2コマ)
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 1コマ目 0:00〜0:10 | 導入:富野由悠季の経歴と、『映像の原則』の著者であることを伝える |
| 0:10〜1:00 | 『機動戦士ガンダム』第1〜2話を上映(止めない・戻さない・飛ばさない) |
| 1:00〜1:30 | 第1話の場面を選んで再生し、カメラの位置と画面の左右を書き出す |
| 休憩 | — |
| 2コマ目 0:00〜0:25 | 解説:アニメに持ち込まれた映画の文法、『映像の原則』の考え方 |
| 0:25〜1:10 | 演習 |
| 1:10〜1:30 | 数名が発表し、講評 |
第1〜2話の上映時間は約50分です。
授業で投げた問い
- ガンダムが初めて動く場面で、カメラはどこにありましたか。それはなぜだと思いますか。
- 敵と味方は、画面のどちら側から現れることが多かったですか。
- セリフで説明せず、画のつなぎで分かった場面はありましたか。
参照動画
授業で扱った作品と、富野由悠季を知るための映像です。
-
『機動戦士ガンダム』(1979)第1話
サンライズ
ガンダムが初めて動く場面のカメラの位置を確認してください。
-
『機動戦士ガンダム』劇場版3部作の予告編
サンライズ
TVシリーズを劇場用にまとめ直したときに、何が変わったかを考えてください。
-
富野由悠季のインタビュー
インタビュー・講演映像
演出やコンテについて本人が語る映像の参考です。
参考書籍
-
演出全般
映像の原則 改訂二版
富野由悠季/キネマ旬報社
この回の主役の本です。アニメと実写を問わず、カメラの位置、画面の左右、カットのつなぎを論理的に説明しています。2年間の書棚の中心に置いてください。
参考リンク
-
美術手帖「富野由悠季の世界 ―ガンダム、イデオン、そして今」(経歴、「コンテ千本切り」、展覧会)
-
ファミ通の報道(旭日中綬章、虫プロ入社と『ガンダム』)
-
映像概論
-
源流
-
絵コンテ
-
アニメ
-
富野由悠季
- 映像概論
- 源流
- 絵コンテ
- アニメ
- 富野由悠季