カメラを本物の戦闘機に載せた理由 『トップガン マーヴェリック』
第5回と第6回は、ショット・カメラ・構図を扱います。前編の題材は『トップガン マーヴェリック』です。1986年の『トップガン』の続編で、空中戦の多くを実際の戦闘機で撮影したことで知られています。今回は「カメラをどこに置いたか」から作品を読みます。
作品データ
| 『トップガン マーヴェリック』 | |
|---|---|
| 公開 | 2022年5月27日(米国) |
| 監督 | ジョセフ・コシンスキー |
| 脚本 | アーレン・クルーガー、エリック・ウォーレン・シンガー、クリストファー・マッカリー |
| 撮影 | クラウディオ・ミランダ |
| 編集 | エディ・ハミルトン |
| 主演・製作 | トム・クルーズ |
| 前作 | 『トップガン』(1986年、監督トニー・スコット) |
| 撮影の特徴 | F/A-18の操縦席に小型カメラ6台(俳優向き4台、前方向き2台) |
| 評価 | アカデミー賞6部門ノミネート、録音賞受賞 |
| 配信 | Prime Video:レンタル・購入(見放題対象外)/Netflix・Disney+:配信なし 2026年10月時点。配信状況の調査記事より。参考:U-NEXT・Huluでは見放題。前作『トップガン』(1986)はPrime Videoでの見放題が報じられていますが、記事によって情報が分かれるため要確認 |
出典:Wikipedia英語版「Top Gun: Maverick」、撮影監督へのインタビュー記事をもとに要約しています。
続編までの36年
続編の企画は長く動いていました。2012年に脚本の草稿が書かれましたが、同年に前作の監督トニー・スコットが亡くなり、企画は止まります。2017年にコシンスキーが監督に決まって再始動し、完成した作品はスコットに捧げられています。
作り手のバックボーン
ジョセフ・コシンスキー(監督) 『トロン:レガシー』『オブリビオン』を手がけた監督です。コシンスキーがクルーズを続編に口説けた条件は、本物のジェット機で撮ることだったとされています。
クラウディオ・ミランダ(撮影) コシンスキーと何度も組んできた撮影監督で、二人の共通の考えは「現実に勝るものはない」でした。前作の撮影監督ジェフリー・キンボールに話を聞き、グラデーションフィルターや薄い粒子で前作のルックを引き継いでいます。
トム・クルーズ(主演・製作) 俳優たちが実機の後席で撮影に耐えられるよう、数か月にわたる飛行訓練のプログラムを組みました。
カメラをどこに置いたか
撮影チームは、海軍と1年以上かけて調整し、F/A-18の操縦席にカメラを載せる許可を得ました。ソニーと開発した小型カメラを使い、操縦席に6台、機体の外側に最大4台を取り付けています。前作では、空中にいるクルーズ本人を撮ることはできませんでした。
| 撮り方 | カメラの位置 | 画の役割 |
|---|---|---|
| 機内 | 操縦席の中、俳優の顔の前 | 重力を受ける本物の表情 |
| 空対空 | 並走する撮影機 | 機体の動きと速度、地形との距離 |
| 地上から | 地上のカメラ | スケール感、空母や基地の空気 |
考察:比較から何が言えるか
1. ショットの説得力は「カメラの位置」で決まる
操縦席の中のショットは、CGや合成でも作れます。それでも本物の機内にカメラを置いたのは、俳優の顔にかかる重力だけは再現できないからです。何を撮るかより先に、どこから撮るかを決めることが、ショットの質を決めています。
2. 6台同時撮影は、構図の判断を編集に持ち込む
機内では演出家がその場で指示できないため、6台のカメラで同時に撮り、どのアングルを使うかを編集で選んでいます。第4回の『1917』が「切らない」ために撮影段階で構図を決め切ったのに対し、本作は「選べる」ように撮っています。正反対の戦略です。
3. ルックで36年をつなぐ
前作のフィルターや粒子感を引き継いだことで、新しいデジタル撮影の画が、1986年の記憶と地続きに見えます。源流作品は、物語だけでなく「画の質感」でも引き継げるということです。
4. 実写主義はプリプロで決まっている
実機で撮るという判断は、主演を口説く条件であり、海軍との1年以上の調整や俳優の訓練を前提にしています。撮影現場の工夫ではなく、企画段階の決断です。
授業の進め方(90分×2コマ)
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 1コマ目 0:00〜0:10 | 導入:今回の観点を伝え、「観る前の予想」を書く |
| 0:10〜 | 本編上映(止めない・戻さない・飛ばさない) |
| 休憩 | 構成の区切りで休憩。前半で気づいたことを1行メモ |
| 2コマ目 | 上映の続き |
| 上映後 15分 | 分析シート「たどる面」を個人で記入 |
| 15分 | ペアで「授業で投げた問い」を話し合う |
| 15分 | 解説(この記事の考察) |
| 5分 | 引き出しノートに3つ、降ろす欄を記入 |
『トップガン マーヴェリック』は上映時間が2時間を超えるため、解説は次回の冒頭15分に回します。
授業で投げた問い
- 機内のショットと、空対空のショットで、伝わるものはどう違いましたか。
- 一番「本物だ」と感じたショットはどれですか。その理由は何ですか。
- 宿題で1986年版の予告編を観て、画の質感が似ていると感じた点を探してください。
参照動画
授業で上映した作品の予告編と、撮影手法を知るための映像です。
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『トップガン マーヴェリック』Official Trailer
Paramount Pictures
機内、空対空、地上からの3種類のショットを見分けてください。
-
『トップガン』(1986)予告編
Paramount Pictures
宿題で観る前作の予告編です。画の質感と、空中のクルーズが映らない点に注目してください。
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『トップガン マーヴェリック』操縦席のカメラのメイキング
Paramount Pictures ほか
6台のカメラがどう配置されたかが分かります。
参考書籍
この記事の背景をさらに深く知るための本です。リンクはAmazonのKindleストア検索結果を開きます。
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撮影
Master Shots
クリストファー・ケンワーシー/フィルムアート社
名作映画のカメラワークと構図を、図解でパターンとして紹介した本です。自分のコンテの引き出しになります。
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演出全般
映像の原則 改訂二版
富野由悠季/キネマ旬報社
カメラの位置と構図がもたらす意味を論理的に解説した技術書です。今回の考察の土台になります。
出典
- Wikipedia英語版「Top Gun: Maverick」(スタッフ、企画の経緯、受賞)
- /Film「Top Gun: Maverick cameras」(操縦席のカメラ6台)
- British Cinematographer「Claudio Miranda ASC / Top Gun: Maverick」(撮影の考え方、前作の撮影監督との対話)
- fxguide の記事(海軍との調整)
Wikipediaなどの記述は要約して掲載しています。原文は各リンク先で確認できます。
- 映像概論
- 2020年代
- カメラ
- 構図
- 実写