同じYouTubeにある、二つの設計 YOASOBI『夜に駆ける』から考える
第2回では、学生の宿題から選んだYouTube動画と、YOASOBIのデビュー曲『夜に駆ける』のミュージックビデオを比べました。どちらも同じYouTubeで公開されています。それでも作り方の前提がまったく違う、というのがこの回の論点です。
作品データ
| YOASOBI『夜に駆ける』 | |
|---|---|
| 公開 | 2019年11月16日 YouTubeでMV公開、12月15日に配信開始 |
| 作詞・作曲 | Ayase |
| ボーカル | ikura |
| MVアニメーション | 藍にいな |
| 原作 | 星野舞夜の短編小説(小説投稿サイト monogatary.com のコンテスト大賞作) |
| レーベル | ソニー・ミュージックエンタテインメント |
| 主な実績 | 2020年 Billboard JAPAN 年間総合ソング・チャート1位、日本初のストリーミング10億回再生 |
| 配信 | YouTube(YOASOBI公式チャンネルで無料公開) |
出典:Wikipedia英語版「Yoru ni Kakeru」、THE FIRST TIMES の記事をもとに要約しています。
宿題から見えたこと:YouTubeは「情報」か「人」で見られる
「なぜ最後まで見たか」を聞くと、多くは「知りたいことがあった」「この人が好き」のどちらかに集まりました。YouTube動画の多くは、情報か人で視聴を支える設計になっています。話者が画面の中心にいて、要点はテロップで繰り返されます。これは手抜きではなく、いつ閉じられてもおかしくない環境に合わせた、合理的な設計です。
4つの違い
| YouTube動画 | 映像作品 | |
|---|---|---|
| 前提 | いつでも離脱される | 観客が時間を預けてくれる |
| 掴み | 冒頭数秒で引き止める | 全体のテンションカーブで引っ張る |
| 伝え方 | 話者・テロップ中心 | 画と構成で語る |
| 単位 | チャンネルで継続視聴 | 1本で完結 |
作り手のバックボーン
Ayase(作詞・作曲) ボーカロイドの楽曲制作者として活動していました。YOASOBIは、ソニー・ミュージックが運営する小説投稿サイトの作品を音楽にする企画として2019年に始まり、Ayaseが作曲を担っています。
ikura(ボーカル) シンガーソングライターとして活動していたところを、ボーカルとして迎えられました。
藍にいな(MVアニメーション) 東京藝術大学デザイン科の出身で、在学中にこのMVを手がけています。原作小説の世界を、限られた色と動きで画にしています。
考察:比較から何が言えるか
1. 区別するのは「公開場所」ではなく「作り方」
『夜に駆ける』のMVはYouTubeで公開されていますが、話者もテロップもなく、画と音と構成だけで約4分を引っ張ります。YouTubeにあるからYouTube動画、ではありません。どちらの前提で設計されているかで区別する必要があります。
2. 小説→曲→映像という「翻訳」の層
この作品は、短編小説を曲にし、その曲を映像にしています。原作の物語は、歌詞で一度抽象化され、MVで再び具体的な画になります。プリプロダクションで「何を残し、何を捨てるか」を決める作業の、よい実例です。
3. 同じ曲に、もう一つの設計があった
YOASOBIの名前が広く知られるきっかけになったのは、2020年5月にYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で公開された一発撮りの歌唱映像でした。こちらは演者を正面から捉え、編集をほとんど加えない設計です。同じ曲が、作り込まれたMVと、編集を削ぎ落とした歌唱映像という、正反対の二つの設計で届いています。
4. 見る環境が変われば、作り方も変わる
90年代、映像はテレビかレンタルビデオで、時間を決めて座って見るものでした。今はスマホで、隙間時間に、いつでもやめられる環境で見られます。設計の違いは、作り手の好みではなく、視聴環境への適応です。この話は、2年後に90年代までたどり着いたときに改めて扱います。
テロップは「情報デザイン」
YouTube動画のテロップは、飾りではなく情報を確実に届けるためのデザインです。テレビの画面デザインの基礎は ayato@web の TV DESIGN にまとまっています。
MVが広告になるとき:マクドナルド「ティロリミックス」
YOASOBIの曲は、MVの外にも広がっています。その一つが、日本マクドナルドの「ティロリミックス」です。ポテトが揚がったときに鳴る「ティロリ♪」という音を、人気アーティストの曲とマッシュアップ(2つ以上の曲を混ぜて別の曲にする手法)した企画で、毎年MVが作られています。
| 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|
| 曲 | Ado「踊」× asmi「PAKU」×「ティロリ♪」音 | YOASOBI「群青」× Vaundy「花占い」×「ティロリ♪」音 |
| 公開 | 2023年1月13日、マクドナルド公式YouTube | 2024年1月11日11時1分(ポテトの形の「1」揃い)、期間限定公開 |
| 映像 | 2つの曲のMVのキャラクターを3DCGにして、近未来のマクドナルドの店舗で歌い踊る | アーティストを夢見る若者を、ポテトをモデルにした「ポテト3兄弟」が応援する物語 |
| 作り方 | Unreal Engine 5を中心にした制作の流れ。コマ撮りのような動きのルック | キャラクターデザインはAcky Bright、コンセプトアートはWACHAJACK。アニメーションはMaya、背景はUnreal Engineで作り、データを行き来させる仕組みを作った |
出典:日本マクドナルドの発表、ADVERTIMES、CGWORLDの制作記事をもとに要約しています。MVは期間限定公開のため、授業の時点で観られるかを確認してください。
1. MVであり、ショートムービーであり、CMでもある
2024年版を手がけた電通のクリエイティブディレクターは、この映像を「ミュージックビデオであり、ショートムービーでもあり、ブランドCMでもある」と語っています。今日の授業で引いた「YouTube動画」と「映像作品」の境界線に、さらに「広告」という軸が重なっている例です。
2. お金の出どころが変わると、MVの設計も変わる
普通のMVはレコード会社やアーティストの側がお金を出します。ティロリミックスは、お金を出しているのはマクドナルドです。だから、曲を伝えるだけでなく、ブランドの「音」を記憶させ、店舗のポップアップイベントにまでつながる設計になっています。はじめに読むで話したお金の流れが、1本のMVの中に見えます。
3. 物語のテーマは「作ろうとしてもがく若者」
2024年版のコンセプトは、何かを作ろうとしてもがいている若者の背中を押すことでした。広告でありながら、物語の芯は作り手を目指す皆さんそのものです。お金の出どころが広告主でも、人の心に残るのは、ちゃんと芯のある物語です。
4. 作っているのは、皆さんが入っていく会社
コンセプトアートを担当したWACHAJACKは、世界のビジュアルスタジオで紹介したKASSENの立ち上げメンバーが共同で設立した会社です。CGはMaya、背景はUnreal Engineという、皆さんが授業で触れているツールで作られています。
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ティロリミックス|YOASOBI「群青」× Vaundy「花占い」(2024)
日本マクドナルド
MVとショートムービーとCMの境界を考えながら観てください。期間限定公開のため、観られない場合があります。
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ティロリミックス|Ado「踊」× asmi「PAKU」(2023)
日本マクドナルド
第1弾です。2Dのキャラクターを3DCGにしたルックを確認してください。
授業の進め方(90分×2コマ)
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 1コマ目 0:00〜0:15 | 宿題の共有:「なぜ最後まで見たか」 |
| 0:15〜0:35 | 教材A(YouTube動画の冒頭3分)を上映し、構造を分解 |
| 0:35〜0:55 | 『夜に駆ける』MVを上映し、同じ観点で分解 |
| 0:55〜1:30 | 比較ワークシートを記入し、グループで突き合わせ |
| 休憩 | — |
| 2コマ目 0:00〜0:25 | 解説:4つの違い |
| 0:25〜0:40 | 解説:視聴環境の変化と、MVが広告になる例(ティロリミックス2024を上映) |
| 0:40〜1:10 | 演習 |
| 1:10〜1:30 | 数名が発表、まとめ |
授業で投げた問い
- 宿題の動画は、冒頭何秒で、どうやって引き止めていましたか。
- 『夜に駆ける』のMVで、情報を運んでいるのは何ですか。
- 同じテーマ「神戸の朝」の冒頭10秒を、YouTube版と映像作品版の2通りで書いてください。
参照動画
授業で上映した映像と、比較のための映像です。
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YOASOBI『夜に駆ける』Official Music Video
YOASOBI 公式
授業で上映したMVです。話者もテロップもなく、画と構成だけで約4分を引っ張る設計を確認してください。
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YOASOBI『夜に駆ける』THE FIRST TAKE
THE FIRST TAKE
同じ曲の一発撮りの歌唱映像です。MVとは正反対の「削ぎ落とす」設計を比べてください。
参考書籍
この記事の背景をさらに深く知るための本です。リンクはAmazonのKindleストア検索結果を開きます。
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YOASOBI
夜に駆ける YOASOBI小説集
星野舞夜ほか/双葉社
楽曲の原作となった小説を収めた短編集です。小説がどう曲になり、どう映像になったかを確かめられます。
出典
- ADVERTIMES「YOASOBI×Vaundy ティロリミックス第2弾」(公開日、企画の狙い)
- CGWORLD「ティロリミックス2024」制作記事(コンセプト、キャラクター、コンセプトアート、制作の流れ)
- CGWORLD「ティロリミックス」(2023)制作記事(Unreal Engine 5を中心にした制作)
- 第47回「90年代の短い映像を変えた二人」(MVの源流としてのミシェル・ゴンドリー)
- Wikipedia英語版「Yoru ni Kakeru」(公開日、原作、作曲)
- THE FIRST TIMES「夜に駆ける」10億回再生の記事(原作、MV、チャート実績、THE FIRST TAKE)
Wikipediaなどの記述は要約して掲載しています。原文は各リンク先で確認できます。
- 映像概論
- 2020年代
- YouTube
- MV
- テロップ